真空採血管の使用に関する情報


“NHKニュース10” <2003.10.27> 
“司会者”  皆さんも健康診断で見覚えがあると思います注射器に差し込んでいるこの部分、真空採血管と言われるもので、血液検査に使われます。
“司会者”  この採血管の一部から細菌が検出され、検査の際感染する恐れがあるという研究結果がまとまりました。
“報 道” 血液検査で使われる真空採血管は中が真空になっていて、血管に刺したら自然に血液が入る仕組みです。国内で年間およそ8億本が使われています。藤田保健衛生大学短期大学の勝田逸郎助教授らのグループです。
医療現場で使われている複数のメーカーの真空採血管、合わせて1000本余りについて細菌が混入していないか調べました。
細菌がある採血管は、培養液を入れると白く濁ります。6本に1本にあたる202本から細菌が見つかりました。細菌の種類を調べると、発熱や食中毒・肺炎などを起こすセラチア菌やセレウス菌など少なくとも8種類見つかりました。
“勝 田”  研究者としては、まあ結果は驚いた結果ということになります。健常な方は大丈夫だと思うんですが、やはり免疫力の下がった方においては感染の可能性は非常に高いのではないかと思っています。
“報 道” 国内では真空採血管は滅菌が義務づけられてはいません。内部が真空になっている為、血液は血管から採血管へ流れるだけで、逆流はしないと考えられてきたからです。しかし、研究グループは採血の手順を誤れば、逆流が起きると指摘しています。ポイントになるのは、このゴム製のバンドを外すタイミングです。採血が終わったとき、血管と採血管の圧力は同じになっています。採血管をつけたままバンドをはずしてしまうと、血管の圧力は一気に下がり、逆流が起きるというのです。
その実験です。血管に見立てたチューブに食塩水を流し、途上に採血管をつけます。食塩水を流す位置を低くして、チューブの中の圧力を下げます。腕からバンドを外した時と同じ状態です。すると赤く着色した液が、採血管からチューブに流れ込みました。研究グループは実際の医療現場でバンドを先に外す、誤った医療手順がとられることがあると指摘します。
“勝 田” マニュアルは皆さん持っているんですけど、こういった逆流という考え方が無いものですから、必ずしも守られているとは思えないですね。たぶん誰もそういったことを経験していると思います。
“報 道” 国内で使われている真空採血管のおよそ80%は滅菌されていません。しかし、多くの医療関係者はその事実を知らないということです。勝田助教授は気づかない内に感染が起きると指摘します。
“勝 田” まず、真空採血管の中に一部の物に菌が存在するという事を、やはり採血を担当する方によく理解していただいて、第二点は、いかにその菌が入らない様にするかという手順があるという、そういうことを皆さんにお知らせしたいということ。それから、最終的には真空採血管の滅菌が最大の課題だということを考えています。
“司会者” 海外では1995年にISO(国際標準化機構)が、血流とつながる可能性が少しでもあれば、滅菌しなければならないと定め、アメリカやカナダでは採血管はすべて滅菌しているということです。
“司会者” 厚生労働省は「逆流が起こりうるとすれば問題である。今後の対応を検討したい。」と話しています。

報道後の経過

◎ 当会としては、
  『唯一点からの報道に対する見解は、徒に現場に混乱を招き、患者に不安を与える恐れもある。』

  
ことを考慮し、厚生労働省の見解も考慮しながら、情報収集することとした。
◎ その後の経過概略は、
10月28日: 真空採血管販売メーカーが文書を配布した。
(1)「真空採血管に関する見解」
(2)「真空採血管の安全な採血手技について」
(3)「真空採血管による採血時の注意事項及び滅菌について」
「正しい基本操作を行うと逆流は発生しない正しい逆流防止操作とは」
(1) 採血終了後、採血管をホルダーから抜いたあとで駆血帯を外す。
(2) 採血針を静脈へ穿刺し、ホルダーに真空採血管を挿入し、血液が採血管内に流入し始めたらすぐに駆血帯を外す。
11月12日: 当会から厚生労働省の見解と今後の方針を求めた。
< 回答内容 >
1)報道に対する反響は少しあり、幾つか問い合わせがあった。
2)海外は標準的指針がある。
3)国内では逆流の事故はいまだ無い。
4)採血管は費用の問題もあり、滅菌の義務付けはしない。
5)逆流は、抗凝固剤・試薬等の逆流もあり得る。正しい採血手技をお願いしたい。
6)駆血帯を外すタイミングが重要であり、その手技を徹底して欲しい。
7)採血管取扱指導を、近々通知文として発行する予定で、技師会へも送付する
11月17日: NHKニュースで、採血担当者のインタビューを含めた報道がなされた。
11月17日: 「真空採血管の使用上の注意等の自主点検等について」(薬食案発第1117001号)
厚生労働省から「関係業者への自主点検と適切な措置を速やかに講ずるための指導依頼」として各都道府県衛生主管部(局)長へ通知された。
11月17日: 日本医療器材工業会に「真空採血管ワーキンググループ」が設置された。
<真空採血管の添付文書改訂と今後の対応について> 
日本医療器材工業会真空採血管ワーキンググループ厚生労働省薬食案発第1117001号により添付文書の改訂を行うこととした。
【真空採血管の使用について】
逆流の発生を防止するため、以下の事項を「禁忌・禁止」とします。
1)駆血帯を装着したままで採血管をホルダーに挿入しない。
2)採血管が室温に戻らないうちに採血を行わない。
3)採血針を抜くまで腕の血管を圧迫したり、動かしたりしないこと。
4)採血管に血液が流入し始めた後は、採血ホルダーに押し込むような力を加えないこと。
5)体外循環回路又は中心静脈から採血は行わないこと。
【真空採血管の使用方法・操作方法について】
1) 室温温度になった採血管を用意する。
2) 採血針を血管に穿刺したら、採血管を装着する前に駆血帯を外す。
3) 採血管はホルダーにまっすぐ完全に押し込む。
4) 採血の血流が停止したら、直ちに採血管をホルダーから外す。
5) 連続採血する場合は、ホルダーを固定したまま、採血管を取り替えること
11月18日:  「真空採血管の取扱いについて」(事務連絡)
厚生労働省医政局総務課医療安全推進室より各都道府県衛生主管部局医療安全関係担当者宛に事務連絡がなされた。
11月22日: 当会では、理事会で審議し「会員への情報としてホームページへ掲載する」ことを決定した。
12月 4日: 看護協会と、ホームページでのリンクをはじめ協力することを確認した。また、採血業務については相互協力が必要であるとの認識で一致した。


当会の見解

厚生労働省の採血方法では、採血がスムースに出来ない患者さんもおりますので、以下の点に留意して各医療現場で適切な対応をお願いいたします。 

1.採血時の逆流を防ぐ方法で採血を行っていただきたい。(参考資料等を参照)
2.患者さんに不安を与えないよう説明を徹底していただきたい。
3.患者さんの負担にならないように効率的で安全な方法での採血をお願いしたい。
   (駆血帯を用いる時の注意事項等を参照)

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(1)施設内でコンセンサスの得られた「採血に関するマニュアル」の常備。
(2)常備されている「採血に関するマニュアル」の点検。
(3)患者さんへの「十分な説明と配慮」。(参考:「PSAマニュアル」=日臨技版=)

   

参  考

 欧米諸国の対応 
   
 ★ 滅菌採血管の使用に関しては、欧米においては滅菌済採血管の標準化が進んでおり、すでに非滅菌採血管は禁止されている。
 ◎ 1974年 「真空採血管の使用による敗血症」(カナダ)
 ◎ 1975年 「血液細菌検査の誤判定」(アメリカ疾病予防センター=CDC=)
 ◎      「駆血帯を取り外す時点の逆流を実験的に立証」(カナダ医療機器局)
 ◎       「正しい静脈穿刺(真空採血管の栓を常に上に向ける等)の励行」を勧告
 ◎ 1976年 「滅菌済の真空採血管の使用を支持」(アメリカ臨床病理学会=ASCP=)
 ◎      「真空採血管の滅菌が望ましい」(CDC)
 ◎ 1977年 「非滅菌真空採血管の使用禁止を提案」(カナダ医療機器局)
 ◎ 1978年 「非滅菌真空採血管の使用禁止の法整備」(カナダ)
 ◎ その他  「FDAの滅菌済真空採血管の使用勧告」(アメリカ)
         「ISO(国際標準化機構)による滅菌済真空採血管の使用義務化」(ヨーロッパ)

 NCCLSガイドライン=静脈穿刺による標準的採血法= との対比 

NCCLSガイドライン
=静脈穿刺による標準的採血法=
H3−A3(Vol.18 No.7)改訂版

厚生労働省通知(薬食安第1117001号)

禁忌・禁止事項

操 作 方 法

1) 適切な注射針をホルダーにしっかりと固定させる。 2) 採血管が室温温度に戻らないうちに採血を行わないこと。(採血管の温度変化により採血管内の圧力が変化し、採血管内の内容物等が患者の体内に逆流する  おそれがある。) 1) 室温温度になった採血管を準備すること。
2) 使用する前に採血管を指ではじいて添加剤がキャップ部分や採血管の壁からはがれるようにする。滅菌された採血管を用いること血液培養の場合には、ゴム部分を適切な消毒剤で消毒する。ゴム部分が乾いていることを確認してから静脈穿刺を行う。 
3) 採血管をホルダーに挿入し、注射針に接触させ、適切な位置に来るようにする。適切な位置を越えて採血管を挿入してはならない採血管の陰圧がなくなってしまうことがあるからである。採血管はわずかに引っ込む、この位置のままにする。 
4) 患者の腕や他の穿刺部位が下向きであることを確認する。逆流を防ぐためである。
5) 患者の腕をしっかりとつかむ。採血担当者の親指で患者の皮膚を引っ張る。これにより静脈が伸びる。親指で穿刺部位の1〜2インチ(2.5〜5.0cm)下を引っ張る。 
6) 注射針の開口部を上向きにして、針を静脈と平行にし、静脈を穿刺する。ホルダーのふちをしっかりと持って、採血管を入れ、注射針の尻側の先端部が採血管のゴム部分を貫通するまで押す。注射針が静脈内にある間は採血管が穿刺部位より下にあるような位置を保つ。 
7) 血液が流れはじめたらすぐに駆血帯をはずす。採血管は注射針から抜くまで、位置を変えてはならない。採血を行っている間、採血管の内容物がキャップ部分に接触してはならない。血液が採血管内で行ったり来たりすると、静脈に逆流し、患者に有害反応を起こすことがある。 1)駆血帯を装着した状態で採血管をホルダーに挿入しないこと。(駆血帯を装着した状態で採血を開始し、採血後採血管を挿入した状態で駆血帯を外した場合、静脈血圧が急激に低下し、採血管内の内容物等が患者の体内に逆流するおそれがある。) 2) 採血針を穿刺したら、採血管を装着する前に駆血帯を外すこと。

3) 採血管はホルダーにまっすぐ完全に押し込むこと。
8) 採血管の先端部(注射針の方向に)に弱い一定の力をかけ続けるようにする。止めバルブが働いて採血管内への血流が止まることを防ぐためである。採血が終了するまで採血管に加える力を変えてはならない。 3) 採血針を抜くまで、被採血者の腕の血管を圧迫したり、動かしたりしないこと。(圧迫を解除した際、あるいは腕の配置によっては静脈血圧が急激に低下し、採血管内の内容物等が患者の体内に逆流するおそれがある。)

4) 採血管に血液が流入し始めた後は、採血ホルダーに押し込むような力を採血管に加えないこと。(採血管内の圧力が変化し、採血管内の内容物等が患者の体内に逆流するおそれがある。) 

 
9) 採血管内の陰圧がなくなって血流が止まるまで血液を満たすこと。これによって抗凝固剤と血液の比がちょうどよくなる。採血管が一杯にならないのが正常である。    
10) 血流が止まったら、採血管をホルダーから抜くこと。止めバルブが働き、次の採血管が挿入されるまで血液は流れない。何本も採血管に採血する場合は、最後の採血管で採血してから注射針を腕から抜く。   4) 採血の血流が停止したら、直ちに採血管を採血ホルダーから外すこと。 

5) 連続採血する場合には、ホルダーを固定したまま、採血管を取り替えること。

  5) 体外循環回路又は中心静脈から採血は  行わないこと。(圧力の変動により、採血管内の内容物等が患者の体内に逆流するおそれがある。)  

重要な基本的注意事項

1) 患者の腕、穿刺部位及び採血管が採血中常に下向きであることを確認すること。
2) 翼付針チューブを使用して採血する際は、採血管の位置が上下に動かないようにすること。

   「NCCLSガイドライン=静脈穿刺による標準的採血法=H3−A3(Vol.18 No.7)改訂版」より

 駆血帯を用いる時の注意事項 (同ガイドライン“第7.11.1節”)
1. 駆血帯は1分以上巻いてはならない。血液凝固が起こり血液が組織に浸潤して血腫が形成されることもある。血液濃縮によって蛋白濃度が間違って高値になり、血液細胞の数値も間違って高くなることがある。
2. 静脈を探すために駆血帯を巻いた場合は、穿刺する時には駆血帯を一度はずして、それから2分間経ってからもう一度巻く。
3. 患者に皮膚疾患がある場合は、パジャマの上から駆血帯を巻くかガーゼのパッドかテイッシュを当ててから駆血帯を巻いて皮膚が絞められないようにする。
4. 駆血帯を巻く位置は、穿刺部位より3〜4インチ(7.5〜10.0cm)上に巻く。(“第7.11.2節”)

 「ガイドライン第三版」に対するコメント及び小委員会・作業部会の回答 
◆ コメント
「駆血帯を巻いてから、静脈を選ぶべきである。」
回 答
必要な場合にのみ駆血帯を巻くことを推奨する。」
◆ コメント
「静脈がよく見えないときは駆血帯を巻いて静脈を探すべきである。」
回 答
「小委員会も同意する。第7.9.4.1節を改訂した。」
◆ コメント
血液が採血管に流入しはじめたら駆血帯をはずすことは、任意であり、必ずやらなければならないことではない。血圧が低い患者もおり、駆血帯をはずすと血液が入らなくなる場合がある。
回 答
一分以上駆血帯を巻いてはならない。説明は“第7.11.1節”を参照のこと。」


 日本看護協会公式ホームページ http://www.nurse.or.jp/

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