静脈採血推奨法 Ver.1.0


静 脈 採 血 推 奨 法 Ver. 1.0 
=真空採血管を用いた採血手技とそのポイント=

社団法人 日本臨床衛生検査技師会

 採血時の姿勢は、臨床検査値に影響を与える外的要因として知られており、毛細血管と膠質浸透圧との変化がその大きな原因の一つと考えられています。例えば、肘静脈採血における姿勢の影響では、細胞成分や蛋白質は仰臥位よりも立位の方が5〜15%も増加します。
 また、通常、駆血帯は目的とする静脈を探すために巻きますが、収縮期より低い圧で駆血帯を締めると、水分や低分子物質が血管内から間質へ移動し、細胞成分等は血管内に留まるため濃度が上がります。それは、最初の5分間に激しい変化を示すが、
1分間程度の駆血帯の使用では、分析値にはほとんど影響を与えないと言われています。 <参考文献 (2)>

 

採 血 手 順

採 血 手 技

注 意 事 項

準 備

1.採血に適した姿勢

1)患者の緊張を解くような対応をする。

2)患者には座位、採血者は対面に位置し、
目標とする血管と正面になる位置とする。

⇒ 採血部位は心臓の位置より下にする。

 (1)    患者さんには、これから「採血」することを話し、にこやかな対応を心がける。

 (2)   緊張は、採血針を刺すことにより、迷走神経反射をもたらし、気分不良や血圧低下あるいは徐脈等を引き起こすおそれがあるので注意を要する。

 (3)   採血部位は心臓の位置より下にするためには、患者にあわせて上下に移動出来る椅子が望ましい。

 (4)   患者の緊張等による不測の事態を考慮し、椅子は背もたれと肘掛けの付いたものが望ましい。

 PSAマニュアル」(日臨技)を参照。

2.採血管の準備

3)使用する採血管を室温に戻す。

4)採血針をホルダーに入れ、しっかりと固定する。

⇒  ホルダーは、採血する患者毎に清潔なものを使用する。

⇒  採血針を採血管のキャップ(ゴム)部分に接触させ固定する。

(1)   採血管の温度変化は、採血管内の圧力変化をもたらし採血の際に逆流を発生させるおそれがあり、注意を要する。

(2)  採血管に含まれる抗凝固剤等の添加剤がキャップ部分や管壁に付着しているとその効力が損なわれるおそれがあるので、採血管を指ではじく等して添加剤が管壁等からはがれるようにする。

(3)  採血管のゴム部分を消毒した場合は、完全に乾いていることを確認してから採血を行うように注意する。

(4)  採血針をホルダーに入れ、固定する場合は、採血針を採血管のキャップ(ゴム)部分に接触させる程度に止め、それ以上挿入してはならない。採血管の陰圧が減少することがあるためで、採血管が僅かに引っ込む程度の位置に止めるよう注意する。

採 血

3.穿刺静脈の選び

5)肘の内側にあたる静脈を選ぶ。

6)駆血帯を上腕中間で絞める。

7)指の腹で血管の弾力性を確かめる。

(1)  尺側正中静脈あるいは橈側静脈を選ぶのが一般的であるが、肘内側の静脈を確認するのが困難な場合は手背の側静脈から採血する場合もある。

(2)  静脈を選ぶ場合、静脈がよく見えない時は、駆血帯を巻いてから選ぶようにする。

(3)  患者の皮膚を観察し、必要であればパジャマの上から、あるいはガーゼ等を当ててから駆血帯を巻くようにする。

(4)  駆血帯は1分以上巻いたままにしない様に注意する。 液凝固が起こり血液が組織に浸潤し血腫が形成されることもある。血液濃縮で蛋白濃度が高値になる。また、血液細胞数値が間違って高くなることもある。>

(5)  血管を選ぶのに時間を要する場合は一時駆血帯を緩め、2分間程度経過してから巻きなおすのが良い。

(6)  駆血帯を巻くことで浮き上がってくる静脈を確かめる時は、採血者の利き手と逆の手を用いると良い。利き手が自由になり、スムースな採血に移ることが出来る。

(7)  血管の弾力性を確かめると同時に深さを推測することもまたスムースな採血に進み、患者の負担を軽減する上でも留意すべき点である。

4.皮膚の消毒

8)目標とする静脈の周囲を消毒する。

 (1)  消毒は、通常は消毒用アルコール綿を使用し、擦るようにして消毒する。

 (2) アルコール消毒綿は、アレルギーがある患者に対しては、適正なものを選ぶことが必要である。

 (3)やむを得ず、目標とする皮静脈を選ぶ時間が長くかかる時は、駆血帯を再度緩めて消毒することを心がけることも必要である。

5.採 血

9)穿刺する部位が下向きであることを確認する。 

⇒ 患者の腕をしっかり掴み、親指で少し皮膚を引く。

10) 採血針の切り口を上向きにして 静脈と平行にして穿刺する。

11)採血針が血管に入ったら、採血針をねかせ3〜4mm進めたところで固定する。

12) 採血管をホルダー内に差し込み血液が流入する状態を確認する。

13) 複数の採血管に採血する時は、採血針先が動かないようにホルダーをしっかりと固定して採血管を順にホルダーに差し替える。

 

 

 (1) 患者の腕や穿刺する部位が下向きに維持することは逆流を防ぐためである。

 (2) 親指で穿刺部位の2〜5cm下の皮膚を引くことで静脈が伸び、穿刺が容易になる。

 (3) 実際の穿刺は、末梢側より約30度の角度で行うのが良い。

 (4) 採血管をホルダーに差し込むときは、ホルダーのふちをしっかり持って採血管を入れ、採血管側の採血針の先端部が採血管のゴム部分を貫通するまで押し込む。

 (5) 採血管は採血針から抜くまで、位置を変えてはならない。また、採血の間は採血管の添加剤等が採血管のキャップ部分に接触しないように注意する。血液が採血管の中を行き来すると、逆流するおそれもあるので注意を要する。

 (6) 採血針を抜くまで患者の腕の血管を圧迫したり動かしたりしないように注意する。圧迫を解除した時、腕の位置によっては逆流を起こすおそれがある。

 (7) バルブ(ゴムチップ)の作用で採血管内への血流がとまることを防ぐために採血管の先端部に弱い一定の力をかけ続けることも必要であるが、その場合は加える力を変えてはならない。

(8) 複数の採血管を使用するときは、止めバルブ(ゴムチップ)が作用して、次の採血管が挿入されるまで血液は流れない。

6.採血針の拔針

14) 採血の血流が止まったら、直ちに採血管をホルダーから抜く。

 

15) 駆血帯を外す。

 

 採血管をホルダーから抜いたあとに、駆血帯を外す。

16) 穿刺部位にアルコール綿を軽く当てながら、採血針を静かにまっすぐ引き抜く。

 

 (1) 採血管を装着したままで駆血帯をはずしてはならない。駆血帯を先にはずすと逆流のおそれがあるので注意を要する。

7.部位の圧迫止血

17)血針を抜いたら直ちに消毒用アルコール綿で穿刺部位を圧迫して止血する。

18) 止血されたら、穿刺部位にガーゼ付きの絆創膏を貼り付ける。

(1)通常2〜3分間圧迫止血すると良い。

始 末

8.採血針の廃棄

19) 使用した採血針を破棄する。

20) 使用したホルダーは、適正な消毒方法を用い消毒する。

 (1)  採血針は、再度キャップをしないで専用の採血針捨ての容器等に直接破棄する。

 (2) ホルダーの血液汚染が著しい場合等は、消毒後)医療廃棄物として破棄する。

 (3) ホルダーの材質により、使用出来る消毒薬や消毒方法が異なる。

 ⇒ メーカーへ問い合わせる。

 

<参考文献> (1) 「NCCLSガイドライン=静脈穿刺による標準的採血法=」H3-A4Vol.18 No.7

        (2) 「正しい検査の仕方=検体採取から測定まで=」 1998.11.16 (株)同文社

著 者:W.G.Guder S.Narayanan H.Wisser B.Zawta

訳 者:濱崎直孝(九州大学医学部臨床検査学講座教授)

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