VRSA及びVREの検査について
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従来より問題視されております“バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRSA)”がアメリカ国内で3株分離されております。このため、米国食品医薬局と米国疾病管理予防センターは6月23日、その検査法に係る通知を出しました。その内容は、S.aureusに対する薬剤感受性検査に自動機器を用いた場合VRSAの発見を見逃し新たな感染を引き起こす危険性を示唆したものであります。 これを受け、厚生労働省新興・再興感染症研究事業である「新型の薬剤耐性菌のレファレンス並びに耐性機構の解析及び迅速・簡便検出法に関する研究」を担当している研究班では、「VRSAおよびVREの検査についての暫定的提案」をまとめました。
つきましては、会員に対し「VRSAおよびVREの検査」について適正な方法を実施するよう周知徹底されますようお願いいたします。
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VRSAおよびVREの検査についての暫定的提案
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【経 緯】 これまでにバンコマイシン耐性腸球菌(Vancomycin resistant enterococci : VRE)のvanA遺伝子を保有するバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(Vancomycin resistant Staphylococcus aureus : VRSA)がアメリカ国内(Michigan1), Pennsylvania2), New York3))で3株分離されている。 2004年6月23日に、FDA(The Food and Drug Administration:米国食品医薬局)とCDC(Centers for Disease Control and Prevention:米国疾病管理予防センター)は、以下の通知を行った。 「2004年3月にNew Yorkで尿から分離された3株目のVRSAは、自動機器(MicroscanおよびVITEK)による検査では、バンコマイシン耐性の結果が得られないことが確認されまた。S. aureusに対する薬剤感受性検査に自動機器が使用された場合、VRSAの発見を見逃し新たなVRSA感染を起こす恐れがあります。したがって、自動機器およびその他の方法を含め、VRSAの検出に対する信頼性が確認されるまで、これらの方法は潜在的な危険性があることを認識し、VRSA検出の信頼性が確認されている方法で検査を行って下さい。」 この通知を受けて、2004年7月上旬、日本においてもデイドベーリング株式会社および日本ビオメリュー株式会社はユーザーに対し上記の報告を行った。 CDCなどのこれまでの報告では、3株目の株に対してはVCMのMIC値が32μg/mlであると報告されているにもかかわらず、上記のごとく、一部の自動検査装置ではVRSAと判定できない場合があるという事が指摘された為、国内の細菌検査室において混乱が発生しないよう暫定的に以下の措置を提案したい。 【CDCの推奨法】 自動機器でない微量液体希釈法や寒天平板希釈法による24時間培養後判定を推奨している。 【検査室での対応】 日常検査ではバンコマイシン原末が入手困難であり、自動機器でない微量液体希釈法や寒天平板希釈法の実施は不可能である。また、分離されたS. aureusを全てスクリーニング培地を用いて実施することは実際的では無い。 アメリカで分離された3株のVRSAは、New Yorkで分離された3株目のみが自動機器で検出されなかったもので、他の2株は自動機器で検出されている。したがって、日常検査では精度管理された自動機器による検査法で行っていればVRSAの検出はほぼ可能であると考えられる。 ◎ VRSA / VISAの検出を考慮したS. aureusおよびVREの薬剤感受性検査の方法
VREが未だ散発的にしか分離されない我が国の現状では、van遺伝子を保有するVRSAが出現する危険性はそれ程高くは無いと考えられる。しかし、van遺伝子の供給源となりうるVREが、現在および過去に分離されている医療施設、さらに近隣の医療施設でVREが分離されている医療施設では、VREの検出(スクリーニング)を強化するとともに、VRSAの出現を警戒する必要がある。 1)NCCLS法に基づいた薬剤感受性検査の精度管理を必ず実施する。 2)MRSA感染症の治療の為、バンコマイシンなどの抗菌薬の長期投与を受けている患者様を多数収容している医療施設、また現在およびこれまでにVREが検出されている医療施設などは、日常的な検査業務の中で、VREの分離・検出を心掛ける必要がある。 ただし、単離(純化)された腸球菌株については、上記の高価なスクリーニング培地を用いる代わりに、実施可能な施設では、パウダーとして市販されているMH培地やTS培地などを溶解・オートクレーブ後に、注射用の VCMを適量の滅菌水に溶かして調製したVCM溶液を一定量無菌的に添加し、VCMの濃度が4または6μg/mlとなる培地(液体または寒天平板)を作成して、VCMへの耐性度の予備的な確認に用いる事も可能である。 3)VREが検出された場合は、国立感染症研究所(下記)に連絡、相談をするとともに、感染症法に定められた手続きを実施する。 4)NCCLSの定めるMH培地を用いた薬剤感受性検査法により、万一、VCMのMIC値が≧4μg/mlとなり、VRSA/VISAが疑われるS. aureusが検出された場合は、薬剤感受性検査の再検査とともに、PCR法によるvan遺伝子の検出と遺伝子型の判定が必要となる。 なお、自施設で遺伝子解析ができない場合は、国立感染症研究所または群馬大学に相談する事ができる。 ・国立感染症研究所 細菌第二部 荒川宜親 電話:042-561-0771(内線500) ・群馬大学医学部 細菌感染制御学 池 康嘉 電話:027-220-7990 *今後、CDC、FDA、NCCLSなどからの通知や情報などにより再考する場合がある。 |
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【文 献】 1)CDC. Staphylococcus aureus resistant to vancomycin --- United States, 2002. MMWR. 2002;51:565-567. 2)CDC. Vancomycin-resistant Staphylococcus aureus --- Pennsylvania, 2002. MMWR. 2002;51:902. 3)CDC. Vancomycin-Resistant Staphylococcus aureus --- New York, 2004. MMWR. 2004;53:322-323. 4)Tenover, F.C. et al. Characterization of Staphylococci with Reduced Susceptibilities toVancomycin and Other |
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平成16年7月15日
平成16年度 厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業) 「新型の薬剤耐性菌のレファレンス並びに耐性機構の解析及び迅速・簡便検出法に関する研究」班 主任研究者 池 康嘉 群馬大学医学部 |
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