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南極の氷
百年後の日本はどうなるか
生活の中の真菌
南極の氷
千葉大学病院 吉田俊彦
私の友人で,念願がかなって今回の南極観測隊に参加した者がいます。その友人が,以前私に「観測に行ったら,お土産に南極の氷を持ってきてやるからな。」と言っていたのを思い出しました。そもそも南極の氷というのはどんなものなのでしょうか?
南極の氷は海が凍った流氷とは違い,南極大陸に降った雪が氷に変化したものです。このためしょっぱくはありません。平均2 ,4 5 0m の氷の層が「氷床」となって大陸の上に乗っています。「氷床」はそれ自体の重さにより,内陸部から沿岸部へ年間数メートルから数百メートル移動しています。沿岸部から海に張り出した部分を「棚氷」といい,有名な「ロス棚氷」はフランスの面積とほぼ同じです。そして,「棚氷」は潮汐や海流によって分裂し,「氷山」となって海に流出します。「氷山」の大きさは,高さが2 0 〜4 0m ,海面下はその6 ,7 倍。広さは一辺が1 0 0km 以上のものもあります。そして溶けてなくなるまでに1 0 年程度かかります。南極の氷は雪として降ってから数十万年あるいは数百万年かけて,こんな一生を送るわけです。そしてここで最も神秘的なのが,氷ができる時に封じ込められた当時の大気の存在です。いわゆるこれが「空気の化石」とか「大気のタイムカプセル」などと言われています。今回の観測隊でも,3 年間かけて3 ,0 3 0m 地下まで掘り下げて氷を取り出し,8 0 万年から1 0 0万年前の封じ込められた空気を分析するというものが注目されています。友人がお土産に持ってきてくれるロマンあふれる神秘の氷で,太古の時代を想像しながらお酒を飲むのが楽しみです。

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